肥薩線の人吉・吉松間が築かれたという史実には、「門司から鹿児島までの九州を縦貫する鉄路が出来上がった」という歴史的意義が在る訳だが、そこには長いトンネルや、ループ線、スイッチバックというような「山を越えて安全に列車を運行する工夫」が凝らされた区間も見受けられる。そういう鉄路が「敷設されていること自体」を、産業や地域の歴史を伝える財産と見做し、そこを列車で通って体感する“観光列車”というものが運行中である。
人吉・吉松間で最も長いトンネルである<矢岳第一トンネル>には、北側の入口に当時の逓信大臣であった山縣伊三郎の揮毫で「天險若夷」(てんけんじゃくい)という額が、南側には鉄道院総裁だった後藤新平の揮毫で「引重致遠」(いんじゅうちえん)という額が各々埋め込まれている。「天險若夷 引重致遠」で「天下の難所を(トンネルによって)平地であるかのようにした御蔭で、重い貨物を遠くへ運ぶことが出来る」という意味になる。
このトンネルを通ることになる“観光列車”について、「南(吉松駅)から北(人吉駅)へ」の列車は後藤新平がトンネル入口の額を揮毫したことに因んで<しんぺい>という愛称を与えていて、「北(人吉駅)から南(吉松駅)へ」の列車は山縣伊三郎がトンネル入口の額を揮毫したことに因んで<いさぶろう>という愛称が与えられている。
↓この“観光列車”について、2014年に吉松・人吉の区間で乗車してみた経過が在る…
>><しんぺい>が停まる真幸駅(2014.12.19)
>><しんぺい>が停まる矢岳駅(2014.12.19)
↑この時は「南(吉松駅)から北(人吉駅)へ」の列車で、<しんぺい>の愛称であった…これに乗車して以降、勝手に親近感も覚えて、明治・大正期に大活躍した後藤新平に纏わる本を幾分読んでみたということも在った…それも「興味尽きない旅の副産物」の一種ということになろうが…
“前置き”のような話しで文字数が嵩んでしまった…
今般、<SL人吉>で熊本・人吉間を南下出来ることになって、直ぐに思ったのは<いさぶろう>で吉松へ向かい、そのまま<はやとの風>で鹿児島中央に至り、多少馴染んだ鹿児島で「念願の8620型蒸気機関車牽引の<SL人吉>に乗車出来た」ことに関して、ささやかに“祝杯”ということにしたくなった…<いさぶろう>に関しては、混み合う場合も在るようだが、<SL人吉>のように「ダメで元々位の考えで、窓口に行って尋ねる」という程でもない…席は簡単に確保出来た…
↓吉松から人吉へ<しんぺい>として到着した列車が、<いさぶろう>と看板を替えて折り返す…隣のホームには、八代や熊本を経て、豊肥本線を通り、阿蘇を越えて大分県内の各駅を目指す<九州横断特急>が待機している…

↓この時間帯は、ホームの地点毎に「光の当たり方」に差が在り、列車の色の見え方が色々で面白い…

↑この列車は2輛で運行が基本のようだが、この日は増結車が加わって3輛で運行だった。車輛は、かの水戸岡デザイナーの案によるもので、「いさぶろう・しんぺい」と2つの愛称が大書されている。
↓小学生位の頃に乗車した記憶が在る旧い車輛以上に、「懐かしいような古めかしさ」を醸し出している。2004年頃に登場した車輛なのだが…

↑この「いさぶろう・しんぺい」として改装を施して登場したのは2004年だが、本体はもっと以前から活躍の“40系ファミリー”なディーゼルカーである…
↓車内の、私が陣取った辺り…

↓大畑駅周辺の、ループやスイッチバックが組み合わさった鉄路…見え易い辺りで、2分程度停車してくれる…

↑難工事で開通したこうした区間…貴重だ!!旅客輸送の実績としては、廃止を余儀なくされてしまった区間よりも少ないらしいが…こういう「財産」を護っている様子に出会える!
↓<いさぶろう>は山間の鉄路を進み、この区間の概ね“最高地点”に相当する矢岳駅に着く…

↓この日は、逆光と順光で車輛の色の見え方が随分と異なった…

↑昨年は「積雪の見受けられる中」でこの車輛を視たのだったが、今般は「蒼く輝く空と、マダマダ濃い緑」が鮮烈だった…
↓好天が「過ぎた」ためか、遠景が酷く霞んでしまっていたが…この矢岳辺りの車窓は素敵だ!!

↑ここでも列車は2分間程度停車してくれる…
↓“田の神さぁ”が迎えてくれた真幸駅…

↓真幸駅に停車中の<いさぶろう>である…

↑運転台の辺りに“ワンマン”の表示が在る。JR九州では、2輛で運行する列車は、原則的に「運転士のみの体制」で運行しているようだ。(時々、2輛でも車掌が乗務しているのを見掛ける…)<いさぶろう>等に関しては、車掌ではなく客室乗務員が乗務している。“乗客目線”では、客室乗務員も車掌に似たこともしているが…今般、増結で3輛運行だったことから、<いさぶろう>に車掌も乗務していた…
↓やがて列車は吉松に至る…

↓車輛はそのまま<しんぺい>と看板を替え、今度は人吉へ向けて北上する…

“40系ファミリー”なディーゼルカーを視ると、何か「鉄道車輛!!」と強く主張しているように思えて安心出来るのだが…その車輛を鮮やかで、同時に渋い赤系の色に染め、「本当の旧い車輛以上に、古めかしく懐かしい感じがする?」という内装にしたこの車輛による列車…また何度でも出会いたい感じがする!!
因みに…人吉・吉松間は5往復の列車が運行されていて、その中の2往復が<いさぶろう/しんぺい>である…
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